信頼は対人関係を促進する潤滑油としての役割を果たすと考えられている。発達心理学者のエリクソン(E.H. Erikson)は、生後一年の経験から獲得される自己自身と世界に対する「基本的信頼感」の獲得が、その後の他者や自己に対する信頼、対人関係の基盤となると主張している。社会学の視点からは、専門職に対する信頼は、社会関係や社会制度の中でその専門的な役割を遂行する能力をもっているという期待であり、また専門職は信託された責務と責任を果たすことであろう。専門職として看護職者は、役割と責任を遂行する中で、信頼関係を形成するための技術や知識を活用して、一定のプロセスを積み、看護の対象となる人々と信頼関係を形成していくこととなる。
信頼関係が成立した状態とは、看護の対象となる人々と相互に信頼し合い、安心して感情や思いを開示し、交流できる状態であり、信頼関係を形成することは看護活動の第一歩である。また同時に看護実践の基盤でもある。日本看護協会の「看護者の倫理綱領」では、「看護者は、対象となる人々との間に信頼関係を築き、その信頼関係に基づいて看護を提供する」と明示している。このように、専門職として、信頼関係を形成することも、ひとつの責務であるとも言える。
参考文献
1)荒木正見,荒木登茂子(著):医療経営士上級テキスト11 医療コミュニケーション-医療従事者と患者の信頼関係構築,日本医療企画,2010.
2)John R. Cutcliffe, Hugh P. McKenna(著)/山田智恵里(監訳):看護の重要コンセプト20―看護分野における概念分析の試み, エルゼビア・ジャパン, 2008.
3)Erik H. Erikson(著)/仁科弥生(訳):幼児期と社会1,みすず出版,1977.
4)Carol Leppanen Montgomery(著)/神郡博,濱畑章子(訳):ケアリングの理論と実践-コミュニケーションによる癒し,医学書院,1996.