基本的欲求とは、人間に生得的・本能的に備わっている欲求で、人間の行動はこれらの欲求を満たすために生じると考えられている。
アブラハム・マズロー(A.H.Maslow)は、これらの基本的欲求は階層をなしており、これらの欲求が満たされることで心理的健康や成長が達成されると述べ、次の5つの階層を示している。①生理的欲求(生きていくために必要な食物、水、空気、性などへの欲求)、②安全の欲求(危険から守られ安心していたいという欲求)、③帰属と愛の欲求(自分の居場所があり愛されていたいという欲求)、④承認の欲求(人に認められたい、評価されたいという欲求)、⑤自己実現の欲求(自分らしくありたいという欲求)である。①から④の欲求は欠乏欲求と称され、これらが充足されていない状態では成長につながる⑤の自己実現の欲求には至らないとされている。⑤は成長欲求と称され、これが満たされることによってますます成長へと向かう。
また、人間が生命を維持し日常生活を営みつつ社会的な活動を行う過程において、心身や社会との関係に均衡を保とうとするときに生じる不充足状態を、ニーズ(needs)という。
基本的欲求は、疾患や治療、環境、個人的特性などにより影響を受ける。これらの影響因子を考慮しながら基本的欲求が満たされるように援助することが看護の焦点となる。
参考文献
1)日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会(編):看護学学術用語,日本看護科学学会第4期学術用語検討委員会, 1995.
2)A.H.Maslow (著)/小口忠彦(訳):改訂新版 人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ ,産業能率大学出版部,1987.
3)Virginia Henderson (著)/湯槇ます,小玉香津子 (訳):看護の基本となるもの 新装版,日本看護協会出版会,2006.