悲嘆 grief

悲嘆とは、その人にとって重要な人や物、立場、役割などの実際の喪失、予期的な喪失、または知覚した喪失に対して体験している心理的、身体的、社会的および行動上の自然な反応の過程をいう。苦悩、絶望、無関心、怒り、免疫機能や神経内分泌機能の変調、睡眠パターンの変化、活動レベルの変調、パニック行動などによって示される。
予期的な喪失に対する悲嘆は、予期的悲嘆と呼ばれ、この段階で十分に嘆き悲しむことは実際の喪失を体験したときに喪失の衝撃に耐える力となり得る。実際の喪失を体験したときには、時間的経過によってたどるプロセスがあり、アルフォンス・デーケン(A.Deeken)はこれを次の12の段階として示している。①精神的打撃と麻痺状態、②否認、③パニック、④怒りと不当惑、⑤敵意とうらみ、⑥罪責感、⑦空想形成ないし幻想、⑧孤独感と抑うつ、⑨精神的混乱と無関心、⑩あきらめ:受容、⑪新しい希望:ユ-モアと笑いの再発見、⑫立ち直り:新しいアイデンティティの誕生、である。これらは正常なプロセスであり、やがて回復に向かう。これに対して、病的悲嘆は、これらの過程が長期化あるいは慢性化したり、悲嘆反応が抑圧されて表現されなかったりしてうつ状態に至るもので、看護職からの積極的な援助が必要となる。
参考文献
1)Alfons Deeken,/メヂカルフレンド社編集部(編):死への準備教育2 死を看取る,メヂカルフレンド社,1986.
2)小此木啓吾(著):対象喪失―悲しむということ,中央公論新書,1979.
3)David W. Kissane, Sidney Bloch(著)/青木聡,新井信子(訳):家族指向グリーフセラピー-がん患者の家族をサポートする緩和ケア,コスモスライブラリー,2004.