ヘルスリテラシー health-literacy

用語の定義

ヘルスリテラシーとは、健康情報を入手、理解、評価、活用する力で、日常生活におけるヘルスケア・疾病予防ヘルスプロモーションの場面で用いて、生涯を通じて生活の質を維持・向上できる力である。活用とは意思決定すなわち2つ以上の選択肢から1つを選ぶことで、入手可能な選択肢それぞれの長所と短所を知り、何を重視するかの価値観を明確化するプロセスである。

用語の解説

健康情報を理解する力は機能的ヘルスリテラシーと呼ばれていた。Nutbeamは、それに加えて、ヘルスプロモーションに不可欠な力として2つのヘルスリテラシーを提案した(Nutbeam,2000)。1つは、情報を理解できたとしても、実際に行動を変えるためには周囲のサポートが必要であることが多いため、それを得て生かせる力としての相互作用的ヘルスリテラシーである。2つ目は、そのようなサポートが得られない場合に、行動を変えやすいように周囲や環境へ働きかける力としての批判的ヘルスリテラシーである。これらは、エンパワメントすなわち自分の人生や生活をコントロールできる力を強調したものである。
こうしてヘルスリテラシーの定義を発展させることで、人々が持つ健康への力を可視化するための尺度が開発されてきている。機能的ヘルスリテラシーだけでなく、多様な健康課題別の尺度や、ヘルスプロモーションを含めたより包括的な尺度が開発されている。欧州における包括的な尺度を用いた調査では、ヘルスリテラシー不足は5割ほどを占めていて、社会的政治的な取り組みが必要とされた(Sorensen et al., 2012)。同じ尺度を用いた日本での調査によれば、アジアでの結果を合わせて比較しても最も低く、8割以上が不足していたと報告されている(Nakayama et al., 2015)。日本では理解まではできても、評価や意思決定に困難がみられた。そのため、日本でのヘルスリテラシーの向上の1つの方策として、それが高い人ほど実施しているものの、多くの人が学校でも職場でも学べていない、情報の信頼性の評価方法「か・ち・も・な・い」(書いた人は誰、違う情報との比較、元ネタは、何のために、いつ)と自分らしく意思決定する方法(胸または腹に)「お・ち・た・か」(オプション[選択肢]、長所、短所、価値観)を普及させる試みが進められている(中山, 2022)。
医療者によるヘルスリテラシーに配慮したコミュニケーションにおいては、標準予防策として、すべての患者や市民はヘルスリテラシーが低いと想定し、ティーチバック(話したことを対象に説明してもらい理解を確認する方法)を使うことが推奨されている。また、その人らしい意思決定の支援として、選択肢とそれらの長所・短所を一覧にして価値観を明確にするディシジョンエイド(意思決定ガイド)を活用したシェアードディシジョンメイキング(協働意思決定)の普及が望まれている。こうしたコミュニケーションができる専門家や組織のことを、ヘルスリテラシーのある専門家あるいは組織と呼ぶ。
ヘルスリテラシーのある社会をつくるためには、ガイドラインの作成による良好なコミュニケーションの保証、ヘルスリテラシーに配慮した場づくり、地域・国・国際的なレベルでの政策が必要である。

引用・参考文献

1) 中山和弘.これからのヘルスリテラシー, 講談社, 2022.
2) 福田洋, 江口泰正 編著. ヘルスリテラシー: 健康教育の新しいキーワード. 大修館書店, 2016.
3) Nakayama K, et al. Comprehensive health literacy in Japan is lower than in Europe: a validated Japanese-language assessment of health literacy. BMC Public Health, 15:505, 2015.
4) Nakayama K, Yonekura Y, Danya H, et al. Associations between health literacy and information-evaluation and decision-making skills in Japanese adults. BMC Public Health. 22:1473, 2022.
5) Nutbeam, D. Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century. Health Promotion International, 15: 259-267, 2000. 6)Sørensen, K. et al. Health literacy and public health: a systematic review and integration of definitions and models. BMC Public Health, 12:80, 2012.