喪失とは、何かを失うことであり、失う対象は多岐にわたる。
喪失には、身体部分の喪失、愛する者の喪失、役割の喪失、記憶や判断力を失うことなどがある。身体部分の喪失は、手術や外傷だけでなく、妊娠や出産によりボディイメージが変化することも含み、直ちに受容し、順応できないことがある。愛する者の喪失は、伴侶や親子、兄弟姉妹など近親者を失うことであり、一般に悲嘆のプロセスを経て受容に至る。役割の喪失は、社会的・家庭的・性的な役割を失うことであり、アイデンティティの喪失につながることがある。記憶や判断力の喪失は、認知症など器質的な問題によって引き起こされる。喪失体験には大きなストレスと深い悲しみを伴い、失った状況に再適応する必要が生じてくる。またこのような喪失体験、あるいは喪失に対する恐れは心理的ストレスを高め、危機的状態を生み出すことにつながりうる。
看護では、喪失体験への適応を促進することを目的として、グリーフカウンセリングなどで心理的なケアを行ったり、その人が自身の連続性を保ち、また新たな自己像を回復する(リカバリ)ことを援助したりする。認知症など器質的な問題によって引き起こされる記憶の喪失なども、本人には強い恐怖や悲しみを伴うとされており、喪失体験にも考慮した看護を行う必要がある。
参考文献
1)日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会(編):看護学学術用語,日本看護科学学会第4期学術用語検討委員会,p.17, 1995.
2)寺崎明美 (編):対象喪失の看護―実践の科学と心の癒し, 中央法規出版, 2010.