苦痛 suffering

苦痛とは、痛み・苦しみ・状況が関連して生じる個人の不快な緊張状態の体験である。苦痛は、人間が遭遇する生活体験であり、自分に起こっている状況を悲痛なものとして知覚したときに表出される。苦痛の表出には個人差がある。その人が苦痛をどのように知覚するかは、苦痛の強さの程度や持続性、状況の深刻さによって様々に変わる。それは、単なる身体的・心理的な不快感であったり、極度な絶望感であったり、生きる意欲喪失を伴うほどの体験であったりする。苦痛は不可視的かつ流動的であり、他者が苦痛を理解するのは困難さを伴うものである。
患者の苦痛は、その人が病気をどのように理解するか、病気をどのように意味づけるかに深く関係する。また、その人の生活の営み、病気に対する文化的価値や社会的認知が関係する。患者の苦痛を緩和するためには、その人のおかれた状況から苦痛を理解するとともに、その人の病気に対する意味づけに注意を払う必要がある。看護による苦痛の緩和は、患者を安らかにするだけではなく、健康の回復や日常生活自立に効果をもたらす。
参考文献
1)日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会(編):看護学学術用語,日本看護科学学会第4期学術用語検討委員会,,1995.
2)J. R. Cutcliffe, H. P. McKenna(著)/山田智恵里(監訳):看護の重要コンセプト20-看護分野における概念分析の試み, エルゼビア・ジャパン,2008.
3)S.Kay Toombs(著)/永見勇(訳):病いの意味―看護と患者理解のための現象学,日本看護協会出版会2001.