看護倫理 nursing ethics

看護倫理とは、看護実践現場において看護職が直面する、患者家族と医療従事者らの間に立ち起こる問題に対して最善を尽くして取り組むための指針であり、また、看護職が自らの行動を律するための倫理規定である。
1970年代、アメリカから起こった生命倫理(bioethics)は、バイオテクノロジーの発展により生命の意味が揺らぎ始めたことに起因し新たな倫理を構築する運動として、また、一種の学問体系的展開として始まった。この生命倫理に基づき、医療の臨床場面で倫理的葛藤が生じた際の具体的な行為指針となる倫理原則として、「無危害」「善行」「正義」「自律尊重」という「医療倫理の四原則」が提示された。
1980年代はじめに、倫理学の領域で相互依存性と脆弱性に焦点をおいたケアの倫理という新しい倫理観が登場し、ケアを実践し続けてきた医療の領域、とりわけ看護の領域に大きな影響を及ぼした。また、看護職が遭遇する倫理的問題は医師のそれと異なるため、ケアの倫理が看護倫理にとって有用だと主張されている。現在、看護の倫理規定は、国際看護師協会により「ICN看護師の倫理綱領」(2005)、日本看護協会により「看護者の倫理綱領」(2003)が作成され、看護職の責任や責務、看護の対象となる人々の尊重や秘密の保持などの倫理的行為の基準が示されている。
参考文献
1)日本看護協会(監):新版 看護者の基本的責務―定義・概念/基本法/倫理, 日本看護協会出版会, 2006.
2)Sara T. Fry, Megan‐Jane Johnstone(著)/片田範子, 山本あい子(訳):看護実践の倫理―倫理的意思決定のためのガイド 第3版, 日本看護協会出版会, 2010.
3)Joyce E. Thompson, Henry O. Thompson(著)/ケイコ イマイ・キシ, 竹内博明, 山本千紗子, 他(訳):看護倫理のための意思決定10のステップ, 日本看護協会出版会, 2004.
4) Daniel F. Chambliss(著)/浅野祐子 (訳):ケアの向こう側―看護職が直面する道徳的・倫理的矛盾, 日本看護協会出版会, 2002.