安楽 comfort

安楽は人間の基本的な欲求であり、看護の基本原則として、安全自立とともに重視される要素であるが、安全以上に広く多面的な意味が含まれている。キャサリン・コルカバ(K.Kolcaba)は、安楽とは「緩和、安心、超越に対するニードが、経験の4つのコンテクスト(身体的、サイコスピリット的、社会的、環境的)において満たされることにより、自分が強化されているという即時的な経験である」と定義している。「緩和」とは具体的な安楽のニードが満たされた状態、「安心」とは平静もしくは満足した状態、「超越」とは問題や苦痛を克服した状態をいう。すなわち、身体的安楽とは、痛みや煩わしい自覚症状などがない状態、精神的安楽とは、穏やかで落ち着いた気持ちでいることができ、周囲の人々との間に安定した相互作用をもたらすような状態、社会的安楽とは、自身の社会的役割の遂行状態に対して、自分にも家族やその他の周囲の人々にも不満や苦痛のない状態などとして捉えることができる。環境的な安楽としては、快適な室温や清浄な空気、適度な明るさや静かさ、くつろぎをもたらすような物理的環境が備わっていることが挙げられる。
様々な保健医療従事者の中で、最も「安楽」に関わるのは看護職者である。安楽は、当事者にとっての主観的な評価であり、どのような状態に安楽を感じるかは個別性が大きいこと、同じ人であっても状況によって安楽の至適範囲は変化することを念頭におき、看護援助を行うことが重要である。

参考文献
1)K.Kolcaba(著)/太田喜久子(監訳):コルカバ コンフォート理論-理論の開発過程と実践への適用, 医学書院,2008.
2)J. R. Cutcliffe, H. P. McKenna(著)/山田智恵里(監訳):看護の重要コンセプト20-看護分野における概念分析の試み, エルゼビア・ジャパン,2008.
3)川島みどり(編):看護技術の安楽性, メヂカルフレンド社,1974.