環境は、一般的に内部環境と外部環境の2つの側面に分類して捉えられる。内部環境は、生体内の恒常性を維持する内的メカニズムを含み、外部環境とは、人間の生活と生存に影響を与える外的条件を含めて、物理的環境、化学的環境、生物的環境、社会的環境などとして論じられている。
環境の概念は看護学を構成する重要な概念である。看護学において環境の概念を明確化し、看護実践に取り入れたのはフローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)である。ナイチンゲールの環境論では、看護に必要な環境調整の「目標」として「健康回復」を、そしてそのための「手段」として「技術の提供方法」が論じられ、人間と環境は一体であるという人間-環境系の考え方を見据えた視点を含んでいる。人間-環境系の環境論は、多くの看護理論の基本理念として反映され、ヒルデガード・ぺプロウ(H.E.Peplau)やジョイス・トラヴェルビー(J.Travelbee)は、看護職者を対人的環境の重要な要素と捉えている。人間-環境系からみた環境調整の視点として、患者の生活空間を形成している物的環境、患者と関係している人の集まりである対人環境、患者の生活に関わる規範や慣習などを形成する教育・管理的環境がある。人間を含むすべての生物が環境の影響を受けて存在しており、影響を受けるだけでなく、存在自体が環境となり、取り巻く環境に働きかけて相互に影響しあって存在している。
看護職者は、人の健康に影響を及ぼしている環境、そして環境およびその中の重要な要素の相互作用を分析する方法に関して、十分な知識と技術をもつことが必要である。そして、その分析に基づいて、健康に及ぼしている環境を改善しつつ、人々の健康の回復を支援する。
参考文献
1)川口孝泰:ベッドまわりの環境学,医学書院,1998.
2)深井喜代子, 前田ひとみ編:基礎看護学テキスト―EBN志向の看護実践,南江堂,2006.
3)Florence Nightingale(著)/湯槇ます,他(訳):看護覚え書-看護であること、看護でないこと 改訂第6版,現代社,2000.