病気の認識 illness perception

用語の定義
疾患に伴う症状の変化を身体感覚として知覚し、病気に伴う制限・制約そのものを包含した体験を病気としてとらえながら、病気に伴う不確かであいまいな情報を意味づけ解釈すること

Illness perception is perceived changes in symptoms associated with a disease as physical sensations and given meaning to and interpreting uncertain and ambiguous information related to the disease, while capturing experiences that encompass restrictions and constraints from the disease itself.

用語の解説
 「illness」「病気」「病い」という概念は、病の体験者による「痛みや、その他特定の症状や患うことの経験」であり、「症状や能力低下を認識し、それとともに生活しそれらに反応するのかを示すもの」(Kleinman,1988/1996),「患者の体験や主観的な受け取り方を重視した言葉」(片山・小玉・長田,2009)であるとされ、治療者の視点による生物学的な構造や機能の変化に着目した「disease」「疾患」とは根本的に異なる用語として扱われている(Kleinman,1988/ 1996)。
 illness perception 病気認知・病気の認識に関する研究の多くはLeventhal らの病気認知の概念(Leventhal et al.,1980)に基づき成人期の慢性疾患患者を対象に行われており、糖尿病患者の病気の認識は個人的信念・文化的信念に影響を受け療養計画の遵守に影響を及ぼすこと(Barnes,MossMorris&Kaufusi,2004),血液透析患者の病気認知に含まれるポジティブな感情表象は患者としての病気適応にプラスに影響していること(片山・小玉・長田,2010),疾患特性によってはその人の中にhealthperception とillness perception が混在し、その間で揺れ動いていること(加藤,勝野,2015)などが報告されている。
 一方、子どもの病気認知・病気の認識についてWalker,Papado,poulos,Lipton&Hussein(2006)は、小児期と成人期の患者の病気認知や対処行動などを含む自己調節モデルの構造に根本的な違いはなく、子どもにおいてもLeventhal の示した自己調節モデルの枠組み(Leventhal et al.,1980)を用いることができると述べたうえで、そのプロセスには子ども特有の認知の特性や発達段階、子どもの経験が大きな影響を与えている可能性があることを報告している。
 病気認知Illness Perception の定義は、Rodgers の概念分析の手法(Rodgers,2000)を用いた分析から導き出した。
 「慢性疾患をもつ子どもの病気認知」としての属性として【身体感覚による病気知覚】【制限・制約による病気知覚】【病気情報の不確かな解釈】【病気の意味付け】が抽出された。「慢性疾患をもつ子どもの病気認知」の先行要件は【子どもの個人特性】【疾患・治療の特性】【病気の子どもに対する養育者の養育姿勢】【子どもが受け取る病気に関する情報】が抽出され、またその帰結は【病気をもつことによる葛藤】【自己概念への病気の浸透】【病気への自分なりの対処行動を決める】であった(鈴木,泊,2020)。
 子どもの病気認知に影響を及ぼす子どもの特性である子どもの認知発達段階は、常に変化し続けていること、子どもが得る病気・疾患に関する情報は多くの場合、医療者や養育者からコントロールされていることは、子どもの「解釈」としての病気認知に大きな影響を与えていると考えられる。
 さらに養育者に関する要因は子どもの病気認知にも影響を与えること(Bornstein,2015)が知られている。養育者の養育姿勢や、養育者自身の子どもの病気のとらえ方、どのように子どもに情報を提供しようとしているのかは、当然ながら疾患に関する情報の伝達内容そのものだけではなく、子ども自身の病気の捉えにも影響を及ぼすことが考えられる。
 本人しか直接感じることのない身体感覚である痛みや不快感についての概念化は、これら、出生後、養育者など他者との間接的な体験の共有のプロセスを経て進んでいくと考えられる。
 また、身体感覚としての症状の知覚は大小の変化に伴い感じられるものではあるが、先天性の疾患や幼少期発症の慢性疾患の場合、基点としての正常性が知覚できないことから、それらの疾患をもつ子どもの病気認知は特有の特性をもつといえる。制限・制約による病気知覚については、自己の病気によって生活にどのような影響や制約が及ぶのかについてとらえ考えることである。慢性疾患をもつ子どもの発達的特性から見ると、病気による制限・制約は症状の予防や症状悪化の予測といった幼少期の子どもには理解しにくい概念をベースに行われる事柄であること、慢性疾患の特性としての症状の不安定さや一貫性の無さにより常に病気を知覚しているわけではない状況の中での悪化要因を取り除くための制限・制約であるという因果関係性の理解の困難さがあること、病気の存在に伴う制限・制約を自己と他者との違いの中で自覚することなどが、子どもの病気認知概念における属性としての【制限・制約による病気知覚】の特徴であるといえる。
 加えて、この【制限・制約による病気知覚】は、子どもが日常生活や社会生活上の様々な活動に際して“病気のために~ができない”といった経験を繰り返すことを通して認知する病気の側面であり、その後の子どもの対処行動や他者への関わり方・自己概念・アイデンティティ形成にも大きな影響を及ぼすものと考えられた。
 病気認知の属性としての、身体の内からの症状に伴う実感としての感覚である【身体感覚による病気知覚】と、内なる病気の存在および、それに重なる形で外部の他者から課されることで自覚する【制限・制約による病気知覚】は相互に関連しあい、慢性疾患の特性としての症状の不安定さや複雑さ・一貫性の捉えにくさによる混沌とした状況の中で、子どもの認知発達の特性を通して認識されることによって【病気情報の不確かな解釈】【病気の意味付け】につながっていると示唆された(鈴木,泊,2020)。
 慢性疾患をもつ子どもの病気認知の属性カテゴリから、慢性疾患をもつ子どもの病気認知を、「疾患に伴う症状の変化を身体感覚として知覚し、病気に伴う制限・制約そのものを包含した体験を病気としてとらえながら、病気に伴う不確かであいまいな情報を意味づけ解釈すること」と定義した(鈴木,泊,2020)。
 子どもの病気認知の定義(鈴木,泊,2020)については、子どもの発達的特性をふまえた分析を通して抽出した内容であるが、導き出されたその現象は子どもの特性を含みつつ、子どもに留まらず、広く病気をもつ大人においても普遍的で、共通する概念であると考え、「病気の認識」として再定義を行った。

参考文献
・Barnes,L.,Moss-Morris,R.,&Kaufusi,M.(2004):Illness beliefs and adherence in diabetes mellitus:A comparison between Tongan and European patients. New Zealand Medical Journal,117(1188),1-9.
・ Bornstein,M.H.(2015):Children’s parents.In Lerner,R.H.,(Ed.),Handbook of child psychology and developmental science. Ecological and processes in developmental systems (seventh edition),Wiley&Sons, New York.
・ Kleinman,A.(1988)/江口重幸,五木田紳,上野豪(1996):病の語り 慢性の病をめぐる臨床人類学,誠信書房,東京.
・ 片山富美代,小玉正博,長田久雄(2009):日本語版病気認知質問紙の作成と信頼性・妥当性の検討‐血液透析患者による検証‐.健康心理学研究,22(2),8-39.
・ 片山富美代,小玉正博,長田久雄(2010):血液透析患者の病気認知が病気適応に及ぼす影響.ヒューマン・ケア研究,11(1),21-31.
・ 加藤智子,勝野とわ子(2015):Health-illness perceptionの概念分析,日本保健科学学会誌,18(2),51-58 . https://www.health-sciences.jp/journal/backnumber/018_02.pdf
・ Leventhal,H.,Mayer,D.,&Nerenz,D.(1980):The common sense representation of llness danger.In Rachman,S(Ed.), Contributions to medical psychology(Vol.2,pp.7-30).New York:Pergamon Press.
・ Rodgers,B.L.(2000):Concepts analysis An Evolutionary View.InRodgers,B.L.,Knafl,K.A.(Eds),ConceptDevelopment in Nursing;Foundations, Technic and Applications second Edition, Saunders Company, Philadelphia.
・ 鈴木美佐,泊祐子(2020):「慢性疾患をもつ子どもの病気認知」の概念分析.日本看護研究学会雑誌,43(4),745-756.
・ Walker,C.,Papadopoulos,L.,Lipton,M.,et,al.(2006):The importance of children’s illness beliefs:The Children’s Illness Perception Questionnaire (CIPQ) as a reliable assessment tool for eczema and asthma,Psychology Health&Medicine.11(1),100-107.