全人的痛み(トータルペイン) total pain

全人的痛みとは、身体的な痛みに加えて、心理的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルな痛みの4つの要因が統合されて患者が感じている痛みをいう。その痛みは不快な感覚・情動体験であり、あくまで個人の主観的な感覚である。全人的痛みは、患者病気だけに焦点を当てるのではなく、患者の全人格にわたる痛みに焦点を当てたものであり、がん患者に関わったシシリー・ソンダース(Dame Cicely Saunders)がうみだした概念である。
患者の感じる痛みは、身体・心理・社会・スピリチュアルな面にまで広範囲に及ぶが、各々の面の痛みとして明確に分類されるものではなく、相互に関連しており複雑である。疼痛など身体的な痛みは、不安・恐怖・怒り・抑うつなどの心理的な痛み、社会的な存在からの離脱という社会的な痛み、生きることの無意味さ・無価値などの実存的な痛みへと広がり、痛みの悪循環が生じて痛みを増幅させる。全人的痛みは、患者のみならず家族をも苦悩させる。全人的痛みの緩和に向けたケアは、患者家族に向けた全人的アプローチであり、そのためには、各職種が各々の専門性を生かしたチームによる総合的なアプローチが不可欠である。
参考文献
1)Dame Cicely Saunders(編・著)/岡村昭彦(監訳):ホスピス―その理念と運動, 雲母書房,2006.
2)恒藤暁(著):最新緩和医療学, 最新医学社, 1999.